共有物分割請求とは?分割方法・メリット・デメリット・手続きの流れ
不動産などを複数の人が共有している状態は、共有者間でのトラブルの火種となり得るうえ、物件の円滑な運用・処分が阻害されてしまうデメリットがあります。
物件の共有状態を解消するための有力な手段になり得るのが、「共有物分割請求」です。
物件の共有持分を保有している方は、必要に応じて弁護士に相談のうえで、共有物分割請求をご検討ください。
この記事では、共有物分割請求の概要に加えて、分割方法・メリット・デメリット・手続きの流れなどを併せて解説します。
1 共有物分割請求とは?
共有物分割請求とは、ある共有者が他の共有者に対して、共有物の分割を請求することをいいます。
⑴ 共有物の「分割」とは?
共有物の「分割」とは、共有状態にある物を共有者間で分けることで、各共有者の単独所有とすることを意味します。
必ずしも共有物を物理的に分割する(現物分割)とは限らず、後述するように、代償分割や換価分割の方法も認められます。
⑵ 共有者は原則いつでも共有物分割を請求可能
民法256条1項本文に基づき、各共有者は他の共有者に対して、いつでも共有物の分割を請求することが可能です。
他の共有者が共有物の分割を拒否する場合でも、後述するように、協議を経て訴訟を提起することによって、最終的には共有物の分割を強制的に実現できます。
⑶ 分割禁止特約がある場合
ただし、共有者間で共有物の分割を禁止する特約がある場合には、例外的に共有物分割請求が認められません(民法256条1項但し書き)。
分割禁止特約の有効期間は最大5年間で、期間満了ごとに最大5年間の更新が認められます(同条2項)。
2 共有物分割の3つの方法
共有物分割請求を行う場合、共有物の分割方法には、「現物分割」「代償分割」「換価分割」の3種類が考えられます。
⑴ 現物分割
「現物分割」とは、共有物を物理的に分割することをいいます。
たとえば、共有物件が更地であれば、共有持分の割合に応じて更地を分筆し、各共有者が1筆ずつを単独所有する分割方法が「現物分割」です。
これに対して、共有物件が建物の場合は、建物自体を物理的に分割することは現実的に困難なので、現物分割が採用されることは基本的にありません。
⑵ 代償分割
「代償分割」とは、共有者の一部が共有物を取得し、その他の共有者に対して代償金を支払う分割方法です。
代償分割を行う場合、共有物件を時価評価したうえで、共有持分の割合に応じて、共有物件を取得しない共有者が受け取るべき代償金の金額を算定します。
共有物件の取得を一部の共有者のみが希望しており、その共有者が代償金を準備できる場合には、代償分割を行うことが望ましいでしょう。
⑶ 換価分割
「換価分割」とは、共有物を売却し、売却代金を共有者間で分ける分割方法です。
換価分割の場合、一円単位で売却代金を分けられるため、共有持分割合に応じた公平な分割が実現できるメリットがあります。
その反面、共有物自体がどの共有者の手元にも残らないことが最大のデメリットといえるでしょう。
共有者の中に共有物件の取得を希望する人がいない場合や、分割方法についての話し合いがまとまらない場合には、換価分割が最適な落としどころとなる可能性が高いです。
3 共有物分割請求を行うメリット
共有物分割請求を行うと、共有状態から生じるリスクを解消できるうえ、共有持分を単独で処分する場合よりも、有利な条件で対価を得られる可能性があります。
⑴ 物件をスムーズに運用・処分できるようになる
共有物件を運用・処分するためには、他の共有者との間で意思結集を行わなければなりません。
たとえば共有物件を賃貸に出す場合、トータルで過半数の共有持分割合を有する共有者の同意が必要です。
また、共有物件を売却する場合には、全共有者の同意が必要となります。
このように、共有者間の意思結集が必要なことが災いして、共有者の希望が運用・処分の方法に反映されなかったり、意思結集に時間がかかってしまい機会損失が発生したりするおそれがあります。
さらに、共有物の運用・処分に関して共有者間で揉めてしまい、関係性が悪化するリスクも残ってしまいます。
共有物分割請求によって共有状態を解消すれば、共有物件の運用・処分に関する意思結集は不要となるので、これらの共有状態から生じるリスクをすべて解消できる点が大きなメリットです。
⑵ 共有持分を処分するよりも有利な対価を得られる
共有状態から生じるリスクを避けるには、共有持分を売却して共有状態から離脱する方法も考えられます。
共有持分の売却は、各共有者が単独で行うことができるため、共有物分割請求よりもスムーズに手続きを進められるメリットがあります。
しかしながら、共有持分の売却相場は、共有物件全体を売却する場合に比べて低く抑えられる傾向にあるため、売却によって十分な対価が得られるとは限りません。
立地などによっては、一般の不動産流通市場では買い手が付かず、不動産業者に安く買いたたかれてしまうおそれもあります。
これに対して、共有物分割請求を通じて代償分割や換価分割を行えば、共有物件全体の価格を基準として共有持分を現金化することができます。
この場合、共有持分を単独で売却するよりも高額の対価が得られる可能性が高く、共有者にとっては大きなメリットがあるといえるでしょう。
4 共有物分割請求を行うデメリット
共有物分割請求は、他の共有者との間の協議や訴訟によって行います。
したがって、共有者間での調整がうまくいかないことに伴い、以下のリスク・デメリットが常に存在します。
⑴ 共有者の主張通りに分割されるとは限らない
共有物分割請求を行う際、共有物分割の方法は、以下のいずれかの手続きによって決定されます。
•共有者全員の合意
•裁判所による判決
たとえば、自ら共有物件を取得する代償分割を主張したとしても、他の共有者も共有物件の取得を希望し、どちらが取得するか話し合いがまとまらないケースが考えられます。
この場合、協議がまとまらずに訴訟に発展し、最終的に裁判所によって換価分割が命じられるケースも珍しくありません。
このように、共有物分割の方法について共有者間の意見が食い違っている場合、請求者が意図しない形で共有物の分割が行われてしまうおそれがあるので注意が必要です。
⑵ 共有者間の関係性が悪化するおそれがある
共有物分割の協議がまとまらない場合、最終的には訴訟で共有物分割の方法を争います。
訴訟手続きにおける対立構造を前提として主張を戦わせることは、共有者間の関係性を決定的に悪化させることに繋がりかねません。
そのため、特に共有者が親族同士の場合などには、その後の関係性に悪影響を与える可能性が高いことに留意したうえで、共有物分割請求を行う必要があるでしょう。
5 共有物分割請求の手続き・流れ
最後に、共有物分割請求の手続きの大まかな流れを解説します。
⑴ 協議・調停
共有物分割請求を行う場合、まずは共有者間で協議を行う必要があります(民法258条1項で「共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。」とされてることから、協議をせずにいきなり訴訟を提起することはできません)。
協議の方法は当事者である共有者に委ねられていますが、後に訴訟を提起する可能性があることや、話し合いの内容を明確化すべきことを考慮すると、話し合いの内容を議事録などにまとめておくとよいでしょう。
なお、当事者同士での話し合いがなかなかまとまらない場合は、民事調停の手続きを通じて協議を行うことも考えられます。
⑵ 共有物分割請求訴訟を提起する
共有者間での協議がまとまらない場合、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起しましょう。
共有物分割請求訴訟の管轄は、以下のいずれかの裁判所です。
•いずれかの被告の普通裁判籍の所在地(住所地など)を管轄する地方裁判所
•不動産の所在地を管轄する地方裁判所
共有物分割請求訴訟を提起するには、協議が不調となったことが要件とされているため(民法258条1項)、訴状と併せて協議の議事録などを裁判所に提出する必要があります。
その他に必要な書類等は、収入印紙・郵便料・不動産の固定資産評価証明書・全部事項証明書などです。
また、共有物分割請求訴訟は、共有者全員を当事者とする必要があります(固有必要的共同訴訟)。
したがって、原告となる共有者以外の共有者全員を被告とすることが必要です。
⑶ 口頭弁論期日での主張・立証
口頭弁論期日では、公開の法廷において、原告・被告双方が分割方法に関する主張を行い、各主張を補強する証拠を提出します。
裁判所に自らの主張をよく理解してもらえるように、口頭弁論期日の前には、「準備書面」と呼ばれる主張をまとめた書面を提出するのが一般的です。
⑷ 和解・判決・共有物の分割
共有物分割請求訴訟の中では、裁判所が当事者に和解案を提示する場合があります。
共有者全員が和解案に同意した場合、裁判上の和解が成立し、その時点で共有物分割請求訴訟は終了です。
一方、共有者間で和解が成立しない場合には、口頭弁論期日での審理が尽くされたと判断した時点で、裁判所が判決を言い渡します。
判決は控訴期間(判決書の送達から2週間)を経て確定します。
裁判上の和解や確定判決によって、共有物分割の方法が確定した場合、当事者はそのとおりに共有物を分割する義務を負います。
(共有者は必要に応じて、強制執行の手続きをとることも可能です。)
6 まとめ
共有物分割請求を行うことで、共有状態から生じるリスクを、共有者にとって有利な条件で解消できる可能性があります。
共有物分割請求を行う場合、他の共有者との間で協議や訴訟を行う必要がありますので、スムーズに手続きを進めるには弁護士へのご相談がお勧めです。
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